売れる営業を見ると、「話すのがうまいから売れている」と思うかもしれません。
でも、現場に出てみると、それだけではないことが分かります。差がついているのは、会う前です。
私は自動車ディーラーで6年営業をして、いまは不動産の営業をしています。ディーラー時代は、お客様が来店する前に必ず店長と打ち合わせをしていました。誰が来るのか、何を聞くのか、その日をどこで終わらせるのか。
正直に言うと、入社当初はこの時間を面倒だと思っていました。いまは、あれが一番効いていたと分かります。
この記事では、実際に現場でやっていた準備の中身をそのまま書きます。抽象的な心構えの話ではありません。

営業の事前準備は「台本作り」ではない
事前準備と聞くと、話す内容を組み立てることだと思う人が多いと思います。
そこがずれています。 というより、それをやると苦しくなります。
会話は生き物です。想定どおりに進むことはまずありません。台本を作れば作るほど、そこから外れたときに立て直せなくなる。「準備しても意味がなかった」となるのは、たいていこのパターンです。
私が現場でやっていたのは、こちらです。
30分から60分ある接客時間の中で、「これだけは聞いておく」という質問を決めておく。
話す内容は決めません。決めるのは、その日に持ち帰る情報です。
だから、会話の流れが想定と違っても準備が無駄になりにくい。どこへ話が流れても、その質問さえ差し込めれば目的は果たせます。ここが台本との違いです。

準備をしなかった商談は、こうなる
準備の必要性を実感したのは、うまくいかなかったときでした。
入社したての頃、私はお客様と楽しく話せたら「今日はいい接客ができた」と思っていました。会話は盛り上がるし、雰囲気も悪くない。手応えもある。
でも、店に戻って振り返ると、こうなっています。
- 結局、このお客様がいつ買うつもりなのか分からない
- 何を求めているのかも曖昧なまま
- 次に会う約束も取れていない
会話は盛り上がった。でも、営業としては何も進んでいなかった。
同じことを何度か繰り返して、ようやく分かりました。楽しく話すことと、商談を前に進めることは別なんです。
ここから、来店前に「今日のゴール」を決めるようになりました。

営業の事前準備で決めておく3つ
ディーラーでは、来店予定のお客様ごとに次の3つを決めていました。
- その日のゴールはどこか
- ゴールのために、何を聞くか
- 何を提案するか
順番が大事です。 ゴールが先。質問と提案は、そこから逆算して決まります。
逆に、この3つが決まっていない状態で接客に入ると、さっき書いたような「楽しかっただけの接客」になります。
① その日のゴールを決める
ここが一番差がつく部分です。
ゴールはお客様ごとに違う
その日をどこで終わらせるか。これはお客様ごとにまったく違います。
- とにかく仲良くなる
- 次に買おうとしている車を聞き出す
- 査定を出す
- 試乗してもらう
- 次の土日に商談のアポを取る
一回の来店で買い替えを決めにいくわけではありません。今日はここまで進めば成功、という地点を先に決めておく。
「どうしたらいいですか」と聞く人は伸びにくい
そして、ここははっきり書きます。
ゴールは、営業マン自身が決めるものです。
私は店長に「こうしようと思います」と伝えていました。自分で決めて、それを共有する。店長の役割は、その考えに対して意見をくれることです。
逆に、ここで受け身になって「どうしたらいいですか」と聞いてしまう営業マンは、成長が遅い傾向がありました。
理由は単純で、自分で決めていないと振り返りができないからです。
自分でゴールを設定していれば、達成できなかったときに「なぜ届かなかったのか」を考えられます。人に決めてもらったゴールでは、外れても「言われたとおりにやったのに」で終わってしまう。ここで差がつきます。
上司との打ち合わせは、答えをもらう場ではなく、自分の考えを検証する場です。この違いは大きいです。

② ゴールから「絶対に聞く質問」を決める
ゴールが決まれば、聞くべきことは自然に決まります。
決めるのは会話の流れではなく、必ず差し込む質問です。接客の時間は30分から60分あります。その中で会話がどこへ流れても構いません。ただし、この質問だけは聞いておく、というものを持っておく。
| その日のゴール | 聞いておくこと | 何のために聞くか |
|---|---|---|
| 次に買う車を知りたい | いま気になっている車はあるか | 購入候補を把握するため |
| 査定を出したい | 買い替えを考えたことはあるか | 買い替えの意向を確認するため |
| 試乗につなげたい | 実際に乗ってみたい車はあるか | 試乗への動機を確認するため |
| 商談アポを取りたい | 次に時間を取れそうな日はいつか | 次の接点を作るため |
質問そのものより、なぜそれを聞くのかが自分の中で言えるかどうかが重要です。目的が分かっていれば、会話の流れに合わせて聞き方を変えられます。
③ 顧客情報から提案を仮説立てする
材料は顧客カルテ
ディーラーでは、お客様ごとに顧客カルテがあります。書かれているのはこのあたりです。
- 過去の来店履歴
- 修理履歴
- 車検・点検の時期
- 車の年式
- おおよその走行距離
これを見れば、そのお客様の車がいまどういう状態にあるかは分かります。
大事なのは、カルテを読むことではない
ここからが本題です。
カルテを見るだけなら誰でもできます。 差がつくのは、そこから何を考えるかです。
私がやっていたのは、カルテをもとに**「このお客様にとって、どのタイミングで、どんな車に買い替えていくのがベストか」を勝手に考える**ことでした。
- この年式と走行距離なら、そろそろこの部品が壊れる可能性がある
- 次の車検でこれだけ費用がかかるなら、買い替えた方が結果的に安いかもしれない
- お子さんの年齢を考えると、次はこのサイズが必要になるはずだ
これからの故障を予想し、生活の変化を予想する。

提案は「1つ」ではなく「選択肢」で持っていく
そして、持っていく提案は1つではありません。複数の選択肢を持って接客に入ります。
- いまの車に乗り続ける
- 車検の前に買い替える
- 車のサイズを変える
- 新車ではなく中古車を提案する
- 買い替えではなく修理で対応する
どれが正解かは、話してみないと分かりません。 だからこそ、複数用意しておく。ここが準備の意味です。
「勝手に考える」というのが大事です。お客様に言われてから考えるのでは遅い。会う前に仮説を持っているかどうかが、提案の質を決めます。
そして、その仮説を店長と話す。ここで自分の考えが甘ければ、その場で穴が見つかります。

初対面が9割の不動産営業では「聞くこと」を準備する
ここまでは既存のお客様の話でした。「初対面ばかりの営業には使えないのでは」と思った人もいると思います。
私はいま不動産の営業をしていて、接客するお客様の9割が初対面です。カルテもなければ、過去の履歴もありません。
それでも準備の考え方は同じでした。
準備するのは「何を聞くか」
初対面のお客様に対して、私が決めているのは何を聞くかです。
- いま、どんな部屋に住んでいるのか
- いまの部屋で後悔していることは何か
- 譲れない条件と、妥協できる条件はどれか
特に「いまの部屋で後悔したこと」は必ず聞きます。ここに、お客様が口に出していない優先順位が入っているからです。
「条件どおりの部屋」を探すのが仕事ではない
お客様は「駅から10分以内、2LDK、家賃○万円まで」と条件を挙げてくださいます。でも、その条件どおりの部屋を出しても決まらないことがよくある。
本当に譲れないのは日当たりだったり、収納だったり、周辺環境だったりする。
だから、条件をそのまま探すのではなく、この人は本当は何を優先するべきなのかを考えておく。 できるだけ詳細に条件を聞いて、お客様が想像している理想の部屋にできるだけ近いものを提案する。
つまり、材料がカルテから会話に変わっただけで、「会う前に何を決めておくか」という構造は同じでした。

準備を繰り返すと、自分の営業の型ができる
この準備には、もうひとつ効果があります。振り返りができるようになることです。
回すサイクルはこうです。
- 自分でゴールを決める
- 商談する
- 結果を見る(達成できたか、できなかったか)
- なぜそうなったかを上司と検証する
- 次の準備に反映する
自分で決めたゴールがあるから、達成できたかどうかが判定できる。判定できるから、原因を考えられる。考えた結果が次の準備に乗る。
これを繰り返していくうちに、借り物ではない自分の型ができてきます。うまくいったパターンと外したパターンが蓄積されて、次の準備の精度が上がっていく。
ある時期から、急に契約が決まり始めることがあります。多くの場合、この蓄積が一定量を超えたタイミングです。
もし上司がこの検証に付き合ってくれるタイプなら、それはかなり恵まれた環境です。そうでなくても、一人で回すことはできます。
商談前5分でできる事前準備チェックリスト
最後に、明日から使える形にしておきます。誰にも見せなくていいので、商談の前に紙かメモアプリに書くだけです。
① 今日のゴール 今日はどこまで進められれば成功か?
② 絶対に聞く質問 これだけは聞いておく、という質問は?
③ 提案の選択肢 自分なら、どんな選択肢を出すか?(1つではなく複数)
④ 仮説 このお客様は、本当は何を求めていそうか?
これだけです。5分もかかりません。

まとめ|営業の差は、商談が始まる前についている
営業の事前準備でやることは、この3つに絞られます。
- その日のゴールを決める — 自分で決める。人に聞かない
- ゴールから聞く質問を決める — 台本ではなく「必ず差し込む質問」
- 提案を仮説立てする — 1つではなく複数の選択肢を持つ
そして重要なのは、準備は台本作りではないということ。会話の流れは決めません。決めるのは、持ち帰る情報とゴールだけです。
だから、想定と違う会話になっても機能します。
営業がうまくいかないとき、多くの人はトークを改善しようとします。でも、差がついているのは会う前の時点であることの方がずっと多い。
次の商談前に、メモ帳に3つ書いてみてください。それだけで変わります。
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