商品知識はある。トークも練習した。お客様とも悪くない雰囲気で話せている。
それなのに決まらない。
営業で売れない時期が続くと、たいていの人はトークや商品知識を疑います。でも、もしそういう状態なら、能力の問題ではなく伝える順番の問題かもしれません。
営業の世界では、お客様が購入に至るまでに越える壁を「6つのハードル」として整理することがあります。私も自動車ディーラー時代にこの考え方を知って、いまの不動産営業でも使っています。
この記事では、その6つと、なぜ順番を間違えると売れなくなるのかを書きます。
購買心理の6つのハードル
まず、6つを並べます。
| ハードル | 越えた状態 | お客様の心の状態 |
|---|---|---|
| 不安 | 安心 | この店、大丈夫かな |
| 不信 | 信用 | この人、信用できるのかな |
| 不要 | 必要 | いまのままでも困っていない |
| 不適 | 最適 | これが自分に合うのか分からない |
| 不急 | 至急 | 別に今じゃなくてもいい |
| 不足 | 充足 | その金額は出せない |
お客様は基本的に、この6つを上から順に越えていきます。
もちろん例外はあります。紹介で来られたお客様なら、最初から②不信がほぼ越えられた状態です。既存のお客様なら①②はクリア済みですし、逆に金額から先に聞かれることもあります。
そのうえで、ここが一番大事なところです。
順番は飛ばせても、飛ばしたハードルは後から必ず出てきます。
一時的に話が進んでも、越えていないハードルは必ずどこかで引っかかる。「最後で決まらない」商談の多くは、手前で飛ばしたものが戻ってきているだけです。

本来の流れは、上から下
私が現場でやっていた流れを、そのまま書きます。
① 不安 → 安心
まず、お店に対する不安を取り除きます。
初めて来店したお客様は、少なからず身構えています。変なものを売りつけられないか、しつこくされないか。この状態でいきなり商品の話をしても入っていきません。
② 不信 → 信用
次に、自分自身がどんな人間かを知ってもらう段階です。
お客様は商品を見に来ているようで、案外「この営業マンはどんな人なんだろう」を見ています。ここを飛ばすと、何を言っても営業トークに聞こえてしまいます。
③ 不要 → 必要
ここでようやく、買い替える必要性、引っ越す必要性を認識してもらいます。
車なら、この年式と走行距離ならそろそろ修理費がかさむこと。部屋なら、いまの住まいで感じている不便さ。お客様自身が「たしかに必要かもしれない」と思うところまで持っていきます。

④ 不適 → 最適
必要性が共有できて初めて、最適な車や部屋を探す段階に入ります。
ここからが提案です。逆に言えば、③を越えていない相手にいくら良い商品を出しても、「たしかに良いですね」で終わります。
⑤ 不急 → 至急
最適なものが決まったところで、いま決めるべき理由を伝えます。
決算期のタイミング、次の車検までの期間、部屋なら他の申し込みが入る可能性。事実として伝えられることを伝えます。
念のため書いておくと、存在しない期限を作ったり、不安を煽ったりするという意味ではありません。 事実でないことを言えば、その場は動いても後で必ず信用を失います。ここで使えるのは、本当にそうであることだけです。
⑥ 不足 → 充足
最後に、「買えない理由」を解消します。
金額だけの話ではありません。
- 予算内に収まるように構成を変える
- ローンや支払い方法を調整する
- オプションを削る、条件を変更する
- 総額に納得してもらう
そのうえで、値引きというカードを切る場面もあります。「今ご契約いただけるなら、この金額で」というのは、その一例です。
大事なのは、安くすることが目的ではないということ。買えない理由が予算なら予算を、支払い方法なら支払い方法を解消する。それがこのハードルの中身です。

売れない営業マンは、下から上に伝える
ここからが本題です。
うまくいっていない営業を見ていると、共通していることがあります。
下から上に伝えてしまっているんです。
- 「安くします!」(⑥ 不足)
- 「今買い替えましょう!」(⑤ 不急)
お客様からすれば、まだこの店を信用してもいないし、この人が誰かも分かっていないし、買い替える必要も感じていない。その状態でいきなり値段と決断を迫られている。
これは、お客様から見れば押し売りです。
そして、離れていきます。
値引きしても決まらないのは、これが理由
「安くしないと売れない」と思っている人は多いと思います。
でも実際には、値引きしても決まらないことの方が多いはずです。理由は単純で、⑥を先に出しても、その手前の①〜⑤が越えられていないからです。
必要性を感じていない人に、安い金額を見せても響きません。「安いのは分かったけど、いま要らない」で終わる。
金額が問題なのではなく、順番が問題なんです。

やる気のある真面目な営業マンほど、この落とし穴にハマる
面白いことに、この失敗をするのは、やる気のない営業マンではありません。
やる気があって、真面目な営業マンほどハマります。
理由は、結果を出したいと強く思ってしまうからです。
早く数字を作りたい。今月の目標に届かせたい。目の前のお客様を逃したくない。その気持ちが強いほど、早く⑤と⑥に行こうとします。
気持ちは、痛いほど分かります。私も焦っていた時期があります。
ただ、ここで知っておいてほしいことがあります。
お客様には、お客様のタイミングがあります。
そして、よく知らない営業マンから買いたいとは思っていません。
商品を売る仕事なのに、お客様が見ているのは商品だけではない。「この人はどんな人なんだろう」を見ている。ここを飛ばして商品の話に行っても、届かないんです。
急がない人が、あとで売れる
逆のケースも見てきました。
すぐに営業をかけず、①不安と②不信のハードルをじっくり越えた営業マンは、しばらく数字が出ません。派手さもありません。
でも、そこで地盤ができます。
そして、あとになって売れる営業マンになります。私が見てきた中で、長く安定して数字を出しているのは、だいたいこのタイプでした。
短期的には遠回りに見えて、結果的に一番早い。これが6つのハードルの本質だと思っています。

いま、自分はどのハードルで止まっているか
この考え方の実用的なところは、止まっている場所を特定できることです。
商談が進まないとき、お客様の反応から逆算してみてください。
| お客様の反応 | 止まっているハードル |
|---|---|
| 警戒されている、会話が広がらない | 不安 |
| 話はするが本音を言ってくれない | 不信 |
| 「いまのままで困ってない」と言われる | 不要 |
| 興味はあるが決め手がない | 不適 |
| 「もう少し考えます」で止まる | 不急 |
| 「予算が合わない」と言われる | 不足 |
ここが分かると、次に何をすればいいかが決まります。
たとえば「もう少し考えます」で毎回止まるなら、⑤不急を越える材料が足りていない。あるいは、その手前の③不要が本当は越えられていない可能性もあります。
「なんとなく売れない」が「ここで止まっている」に変わるだけで、打ち手は具体的になります。
失注したときこそ、6つで振り返る
このハードルが一番効くのは、うまくいかなかったときです。
決まらなかった商談を「お客様が悪かった」「価格が高すぎた」で終わらせてしまうと、次に活かせません。そうではなく、①〜⑥のどこで止まったのかを振り返る。
- そもそも警戒を解けていなかったのか
- 必要性を共有できていなかったのか
- 最適なものを出せていなかったのか
- 決める理由を渡せていなかったのか
失注の理由が特定できれば、次の商談で変えることが決まります。これを繰り返していくと、自分がいつも同じハードルで止まっていることに気づきます。 そこが自分の課題です。
▶ 商談前の準備については営業の事前準備は何をする?商談で差がつく「決めておく3つ」で書いています。
車でも部屋でも、順番は同じでした
私は自動車ディーラーで6年営業をして、いまは不動産の営業をしています。
売るものはまったく違います。関係の作り方も違いました。ディーラーは既存のお客様と年単位で関係を育てる仕事でしたが、不動産は9割が初対面です。
それでも、この6つの順番は同じでした。
初対面のお客様が相手だと、①不安と②不信を越えるのに使える時間が極端に短くなります。数年かけて越えていたものを、数十分で越えなければならない。
だから飛ばしたくなる。でも、飛ばすと決まりません。
時間の長さは変わっても、順番は変わらない。 これが業界を変えて分かったことです。

まとめ
購買心理の6つのハードルは、この順番です。
- 不安 → 安心(お店への警戒を解く)
- 不信 → 信用(自分がどんな人間かを知ってもらう)
- 不要 → 必要(必要性を認識してもらう)
- 不適 → 最適(合うものを一緒に探す)
- 不急 → 至急(いま決める理由を伝える)
- 不足 → 充足(金額を提示する)
そして、押さえておきたいのはこの3つです。
- 順番は上から下。飛ばせない
- 売れないときは、下から上に伝えていることが多い
- やる気があって真面目な人ほど、早く⑤⑥に行こうとしてしまう
もし最近うまくいっていないなら、トークを磨く前に、自分がどこから話し始めているかを振り返ってみてください。
時間の長さは変わっても、順番は変わりません。 順番を戻すだけで変わることは、けっこうあります。
営業の壁について、他の記事も書いています。


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